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旅路 [回想]

長崎生まれの父は将来、私と母を連れて長崎に帰りたかったのだと思います。その想いを母から聞いたのが10代になってからでした。二十歳になる直前、母は私を連れて長崎に行きました。目の前に大きなお寺のある父の実家は昔は作家や画家さんの定宿になっていたそうです。迷子になるくらい広い家。母がそう聞かせてくれました。しかし私が最初におばあ様に挨拶したのは暗い小さな部屋でした。昭和38年の事です。

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おばあ様は怖い顔をして私を眺めました。その顔を見て、私はこの旅行は失敗だと思いました。早々に引き上げて私たちはグラパー邸などの見物、その日のうちに東京行きの列車に乗りました。その時その数秒間、まさに劇的なシーンが展開します。普段着姿の細面の女性が出発間際の母の手をしっかり握って「いらっしゃっていたのですね。今、聞いたので!」と涙ぐんでいました。母とその人、言葉はありません。誰だろう~。今も私の脳裏に残るあのシーン。

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私の旅路はここからです。あれから56年の歳月が流れました。今後私の旅路を振り返って、子孫はいないけれど書き遺したい! そういえば15年ほど前にお逢いしたTさん、父の若い時分に似ていた気がします。多分あの方も30代頃でしょうか。その方の紹介文と共にネットのお写真を拝見してそう思いました。やはり九州の方だったのでしょうか。

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